経済産業省(旧通産省)への入庁以降、全国を回りながら日本の産業発展に注力してきた岸本吉生氏
現在はものづくり生命文明機構やデザインコンサルタントの活動を中心に、日本の職人や伝統工芸についても精通されています。

そんな岸本氏に、職人の手しごとを発信するECサイトCRAFT TALESのしゅーがお話を伺う全4回の対談企画。
前半2回をFashion-Archive.com、後半2回をCraft-Tales.comにて配信します。

対談では「売り手」「職人」「買い手」「場所」の4視点から業界の抱える課題や解決のヒントを深掘り。
第3回では「買い手」に目を向け、消費者の側で持つべき視点や買い手と相対する時に持っておくべき考え方を聞きました。

第1回対談

第2回対談

しゅー:昔、美しいものを生活道具に使うことを教養だと考えて、職人にお金を出して支える「旦那衆」という人たちが居ました。

岸本:旦那衆は大事です。
富裕層の仕事の中には「いい仕事をしてる人に仕事をあげる」という仕事があります。
例えば東大寺。日本のお寺の中では金銭的に豊かな寺だと言えるでしょう。
そのお金をちゃんとものづくりに返している。だから1級品の仕事を作る職人に東大寺から仕事がくる。

岸本:このように「良い仕事にお金を出す」のは富裕層の仕事なのだけど、いま日本国の政策の中で「海外の富裕層」という言葉が出てくるようになった。
日本国内の富裕層では十分じゃないと国側が思っている。
悪いことではないけれども、そんなことでは解決しないです。 

しゅー:それはなぜでしょうか?

岸本:やはり職人の仕事に真心を込めてお金を払うのは同じ国の人でしょう。
同じ血を流した人間が愛をもってお金を払う。
自分が100万を出すことで、この人たちの仕事が次へつながることに貢献する。あるいは仕事が良くなることに貢献する。
そこのマインドを持った人は日本にもいっぱいいると思う。

岸本:富裕層が投機目的で価値が上がるものを買うっていうのもそれは真実だけれど、もうちょっと別の世界に光を当てたほうがいいと思います。
「自分にはそんな余裕はありません」と思うなら、その人は富裕層じゃないんです。 
富裕層っていうのは、自分のお金を良いことに使いたいと思っている人を指します。
商人の仕事はそういう人を開拓することです。

しゅー:その国の工芸を支えたいと思う富裕層の買い手を発掘するということですね。

岸本:うん。このことは売り手側がホームページなどにも書いた方がいい。
ものづくりに対して自分の財産を投じたいというお客さんは必ずいます。

しゅー:富裕層以外の「買い手」を開拓する場合はどのようにするのが良いでしょうか?

岸本:「どんな時にこれを使ってほしいか?」「どんな人に使って欲しいのか?」といったことを発信すべきです。 
技術とかスペックだけで説明しないことが大事。そこはクリアしていて当然なんですよ。

岸本:例えばCRAFT TALESで売っている商品はインド人に使って欲しいか?
答えはYes & Noでしょう? そこにターゲット設定をしたわけではないですよね。
でも使ってほしいインド人はいると思うんです。
それは「お母さんがミャオ族のインド人」だとかそういうんじゃなくて「こういう価値観で使ってもらえると私たちはハッピーだ」というCRAFT TALESの理念と合致した人です。
 
岸本:もう1つ思うのは、輪島塗も播州織もそうしようと思っているのだけど、
「誰が作っているのか?」「年間でどれくらい作れるのか?」っていうのを書くべきです。
このAirPodsケースだって10,000個は作れないでしょう?

しゅー:作れないです。

岸本:それはね、書いた方がいいと思う。
仕事が多すぎて職人が疲れるっていうのは、ものづくりとしてはいちばんいけないパターン。 
むしろ時給を上げて仕事は適度っていうのがいい。年間10個だけ作って1000万とかが理想です。 
「限定○個」「○個生産予定」といったふうに数のイメージを示したほうがいい。
私は最初から輪島塗を売るなら受注生産でいこうと思っています。

しゅー:第1回、第2回のインタビューでも受注生産を強く主張されていましたね。
商人と職人、それぞれの立場から見ても「売れてから作る」が望ましいと。

岸本:機械で作る場合は大量に同じものが生産できることがありがたい。
工芸の場合は大量に同じもの作るのは職人が嫌がる。
私だったらAirPodsケースを売るときに、すでに製作済みの既製品の値段を高めに設定する。
特急料金ですよ。あなたが今日欲しいって言うんだから、高いのは当たり前。
カスタマイズ、例えば家紋を入れるなら2ヶ月お待ちくださいと。
「明日欲しい」って言うんならオリジナルマークは無しねと。

しゅー:ファッション業界ではどんどんと制作から販売までのスピードが上がっています。
お客様は待ってくれるのでしょうか?

岸本:それはそれで1つのジャンルです。
うなぎっていうのは、お店に入ってから30分待つものなんです。
コンビニで売っているうな重はレンジで温めてすぐ食べられる。どっちもありです。
CRAFT TALESは「待ってもいい」と思えるサイトにするのがいいですね。