経済産業省(旧通産省)への入庁以降、全国を回りながら日本の産業発展に注力してきた岸本吉生氏
現在はものづくり生命文明機構やデザインコンサルタントの活動を中心に、日本の職人や伝統工芸についても精通されています。

そんな岸本氏に、職人の手しごとを発信するECサイトCRAFT TALESのしゅーがお話を伺う全4回の対談企画。
前半2回をFashion-Archive.com、後半2回をCraft-Tales.comにて配信します。

対談では「売り手」「職人」「買い手」「場所」の4視点から業界の抱える課題や解決のヒントを深掘り。
第4回では「場所」に目を向け、お客様に商品を見てもらえる場所、手にとってもらえる場所をどう作るかお聞きしました。

第1回対談

第2回対談

第3回対談

岸本:輪島塗や播州織の活動を通じて、「現物を見てもらう」ことの難しさがわかりましたよ。

しゅー:それは場所がないということでしょうか?

岸本:うん、場所がないし人が来ない。
渋谷なんかひどいでしょう。 東急百貨店を壊してスクランブルビル建てて。
どんどん駅と直結させるんだけど「そんなことをして誰が見るんだ」と思う。

しゅー:最近、オープンしたばかりの大規模商業施設に閑古鳥が鳴いているというニュースをよくききます。
渋谷の各商業施設も「どこに行ってもこの店がある」といったブランド被りが多く、差別化に苦しんでいる印象です。

岸本:街を歩き、路面店を覗くのは自然ですが、ビルの中でウロウロする気になれないというのもあると思います。
昨今の大規模開発、あれは都市開発屋さんの頭が良すぎるんですよ(笑)
サラリーマンが考えているから間違える。富裕層の意見を聞くべきです。

(自身が着用している播州織の着物を指差しながら)
岸本:これはどこに置くべきか。私は旅館がいいのではないかと思っています。
旅館のお土産物コーナーって、あんまりいいものを置いてない。
だけど例えばホテルニューオータニに行くと、ちょっといい店が中に入っていてよく売れている。
私の知り合いで500万円のミンクの毛皮コートだけを作っているおばちゃんがいる。
お店で世界中に2店舗。帝国ホテルの中とニューオータニの中。よく売れているそうです。

岸本:ホテルに居る層はお金と時間があります。なにかと待ち時間があったりね。
退屈しているときに「ちょっとお店を覗いてみるか」となります。
駅直結のスクランブルビルではこうはなりません。

しゅー:そもそも駅直結のビルに富裕層は来ないかもしれませんね。
駅と繋がっているということは電車を使う人が来るということですから。

岸本:そうです。明らかにミスマッチだ。
私の知り合いにも「あたくし電車には乗りませんの」って人が何人か居ます(笑)

しゅー:播州織のような手しごとの良さは、実際に布の肌触りを確かめるという点でも実店舗がマストですね。

岸本:はい、だからこそ旅館なのです。館内着にしても良いのではと考えています。
「2日間泊まって、ずっと着ていたら欲しくなっちゃった」ってのが良いですね。
最高級旅館に置き、サービスの値段に乗せて、最後に持って帰れるようにする。
そもそもが年間1,000着しか作れない希少品です。

岸本:私ね、工芸品を売る上で大事なのは「うっとり」させることだと思うんです。
「この場所だったら200万円払ってもいい」というシチュエーションをいかに作るのか?

しゅー:ニューオリンズという音楽の街ではどの店でどんな音楽をやっていても出入り自由。日本のライブハウスのようにチャージがありません。
また、どの店も外からお酒が持ち込み自由です。
それなのに、なぜかお客さんは店外より高いお酒をどんどん店内で注文し、お金を使います。

岸本:まさに「うっとり」ですね。

しゅー:お酒が無くなるたびに外に出て、買い足してまた持ち込むなんてことは誰もしません。持ち込んだとしても最初の一杯だけ。
お客さんは「こうした方が安い」よりも気分がいいかどうかを選んでいます。

岸本:私はかみさんとそういう喧嘩をするんですよ。
「こうやって頼めば25ドルで済むのに、あなた不用意に頼むから45ドルになったじゃないか」と。
もちろんそうなのだけれど。
「楽しむために来ているのに、1ドルでも安い方がいいって考えててあんた楽しいの?」って返す。
すると処罰される(笑)
「わかったこと言うんじゃないのよ。 大した稼ぎがないくせに」って言われる(笑)

岸本:私、お金の使い方はまだまだわかりません。
だけど「1円でも安い方がいい」っていうのは違うと思う。
だって「私、あなたの商品が安ければ安いほど幸せです」なんて相手から見たらチャーミングに見えないですよ。
でも今ね、日本社会がそうなっているのが私にはすごく怖い。

しゅー:最後にCRAFT TALESについてアドバイスを頂戴できますか?

岸本:いいサイトだと思う。

しゅー:ありがとうございます。オープン第1弾としてミャオ族のシルバージュエリーを打ち出しました。
将来的には世界中の職人の手しごとを集めるサイトにしたいなと思っています。

岸本:誰が欲しくなるのか、誰をターゲットにするのか。
「買いたいな」と思ってもらったり、買った人への価値提供などはどう考えていますか?

しゅー:すこしとっつきにくい印象のある「工芸」をいかに身近に感じさせるかがテーマです。
日々持ち歩くもの・日常使いするものであれば、使いながら時折職人の手しごとに想いを馳せることができる。
そんな製品を集めたストアにしていきたいと考えています。

岸本:全体を通して「あっ、これいいじゃない」と感じてもらえるメッセージ、共感できるポイントをどこかに入れた方がいいと思います。
今はまだ、いきなり売り場に連れて行かれている印象です。

しゅー:なるほど。重要なご指摘ですね。

岸本:うまく表現するのは難しいですけどね。
サイトに掲載されているコラムひとつとっても、例えば
「いついつからミャオ族っていうのは…この辺に住み始めて…これを作るようになりました…」
みたいな書き方ではなかなか共感を得ることは難しいでしょう。

岸本:人類の歴史は170万年。少なくとも4万年前から船に乗って世界中を旅している人類がいるわけで。
そのある部分だけを切り取って「ミャオ族です」というのは甚だおこがましいわけだな。
部分から入る美学もあるけど、全体があった上で「この部分」っていう美学もあって、ほとんどの人間は両方ないと満足しないと思います。 

しゅー:世界各国の工芸品や職人の歴史・文化の解説をサイトで行う際、どのように書いてゆくのが良いでしょうか?

岸本:感覚の問題。歴史全体を想った上で書いているのか否か。
そうでないとCRAFT TALESは「個別のブランドがどうだ」「ヨーロッパのものづくりはどうだ」というぶつ切りの打ち出し方になってしまう。そういうサイトにはして欲しくないですね。
全部繋がっているのだから。
本当はここに170万年の人類の系譜がある。その感覚が大事だと思います。

しゅー:大切なアドバイスをいただきました。
本日は貴重なお時間いただきありがとうございました。

岸本:ビール飲みましょうかね(笑)

しゅー:ありがとうございます。飲みましょう(笑)