銀(シルバー)」というマテリアルはその発見以降、何千年にもわたって世界中のあらゆる地域・民族から装身具の材料として使われてきました。

では、人々はなぜ銀という素材にこだわったのでしょうか?

装身具史研究家の露木宏氏は著書『神々の宿る銀(2013)』にてその理由を以下の5つに分類し定義しました。

1:自己を美しく装うため
2:邪を払い、招福を願って
3:信仰・宗教の証として
4:財産(動産)として
5;民族のアイデンティティーさらには民族の誇りとして

当サイトでもこの分類にならい、上記5分類にならった「シルバージュエリー着用の理由」について考察。

第5回では、「民族のアイデンティティー」としてのシルバージュエリー、とりわけCRAFT TALESで取り扱っているアクセサリーの生産者、ミャオ族にフォーカスしてご紹介いたします。

シリーズ第4回はこちらから

■銀の着用理由全てに当てはまるミャオ族

このコラムシリーズでは、これまで前述の露木宏氏の分類のうち1~4についてそれぞれ考察や紹介を行ってきました。

本稿でご紹介する「ミャオ族」は、何世紀にもわたって独自のシルバージュエリーの製作と着用を受け継いできた少数民族。

そして分類の1~5すべてに当てはまる人々なのです。

彼らのうち重厚で華美な銀細工を着用するのは女性たち。

婚姻や祭事といった、いわゆるハレの日において自己を美しく装う(1)、そして着用する銀細工には魔除けの護符としての効能(2)や、彼らが信仰する自然崇拝、祖先崇拝、精霊信仰(アニミズム)への想いを込めた(3)紋様が刻まれます。

また、ミャオ族は伝統的に焼畑農業を通じて移動を繰り返す、ないしは山岳地帯に住まう人々。

同様の傾向がある民族が持つシルバージュエリーがそうであるように、ミャオ族の銀には持ち運ぶことのできる財産(4)としての意味も有しています。

■ミャオ族が銀細工を身につける理由は「文字」?

ミャオ族の人々がシルバージュエリーを着用する最後の理由は、民族のアイデンティティーの証明、より深く言えば「コミュニケーション伝達の手段」でもあります。

実はミャオ族は歴史的に「文字」を持たない、いわゆる無文字社会を生きてきた人々です。

彼らにとって文字の代わりにメッセージや日々の出来事の記憶装置、そして神話伝承の役割を果たしたのが紋様や図案でした。

衣装や銀飾りに施された紋様は歴史や物語を思い出すための媒体であり、それゆえにその表現力は芸術のように発達していったのです。

また、織り込まれたメッセージは歴史や物語の記録だけでなく、既婚と未婚の区別や帰属意識を表す身分証としての役割も持ちます。

これは前述の露木宏氏の分類の通り、民族のアイデンティティーの証明としてのシルバージュエリーに他ならないと言えるでしょう。