CRAFT TALESではミャオ族の銀職人集団「瑞銀鳥」と提携し、シルバーアクセサリーの制作・販売を行っています。

本対談の前編では貴州省ミャオ族銀細工の伝承者であり、職人らを束ねた企業「瑞銀鳥」の創設者でもある張暁氏に、ミャオ族銀細工の現状や優れた職人になるための心構えについて伺いました。

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■ミャオ族の銀細工と瑞銀鳥

しゅー:国内外を問わず多くの人がミャオ族の銀細工に惹かれるのは、どのような理由があるとお考えですか。

張暁:ミャオ族の文化には長い年月の中で育まれてきた独特の歴史的な背景があります。

ミャオ族は長い歴史の中で各地への移住を繰り返してきた民族です。財産である「銀」を肌身離さず持ち歩く上で銀細工の文化が発展し受け継がれてきました。

ミャオ族の家庭では、女性一人ひとりが自分の銀細工を持っていると言ってもいいほど、銀細工が私たちの暮らしや文化と深く結びついています。

張:職人の技と精神の継承という側面も重要です。2006年にはミャオ族の銀細工の鍛造技術が中国の国家級無形文化遺産に指定されました。

つまり、ミャオ族の銀細工は単なる装飾品ではなく、そこには私たちの歴史や文化、そして職人たちの技術と精神が込められているのです。

近年では、中国の伝統文化や東洋文化そのものが、中国国内だけでなく世界からも注目されるようになっています。それに伴って、ミャオ族の文化もより多くの方々に知られるようになり、高く評価していただけるようになりました。

しゅー:ほかのシルバーアクセサリーと比べて、瑞銀鳥の商品にはどのような特徴や魅力があるのでしょうか。瑞銀鳥の製作した製品は2022年のG20サミットにおける国賓贈答品に選定されるなど、「ミャオ族」という枠を飛び出して高い評価を獲得しています。

張:私たち瑞銀鳥の商品は、ミャオ族の文化と職人の精神をベースにしながら、現代のファッションや市場のニーズを取り入れて生まれた銀製品です。

伝統文化の美しさをそのまま残すだけではなく、現代の美意識やファッションと融合させることで、より多くの方に身近に感じていただきたいと考えています。そうすることで、私たちの文化をより広く、そしてより速く伝えていくことができると思っています。

ですから、瑞銀鳥の銀細工が表現しているのは、ミャオ族という一つの民族の文化だけではありません。その背景には、中国の長い歴史の中で受け継がれてきた伝統文化そのものがあると考えています。

しゅー:張さんはご自身も銀細工の世界で長年ご活躍され、豊富なご経験をお持ちです。

張:私はミャオ族の銀細工鍛造技術の無形文化遺産の伝承者です。私には三人の師匠がいますが、いずれも非常に優れた職人です。

そのうち二人は、国家級のミャオ族銀細工鍛造技術の伝承者で、熊世華先生と邰引岩先生です。お二人の家系では、数百年にわたって銀細工の技術が受け継がれてきました。

張:代々銀細工を作り続けてきた非常に貴重な伝承者であり、この分野ではまさに「国宝級」とも言える存在だと思います。

私はそのお二人の弟子としてこの技術を受け継ぎ、これからも次の世代へとしっかり伝えていきたいと考えています。

しゅー:彼らは皆、数十年、数百年もの間、何世代にもわたってずっとこの仕事に従事してきたということですね。

張:私は10年以上前から、お二人の先生について銀細工の技術を学んできました。

そして、もう一人、北京に張永寛先生という師匠がいます。国家一級技師で、張先生も非常に素晴らしい職人です。

張:張先生の師匠の家系は、かつて宮廷で皇帝のために金銀の器を制作していた職人の系譜につながっています。当時、皇帝や皇室が使用する御用品の製造、修理、保管を担っていた宮廷直属機関が「清宮造辦処(しんきゅうぞうはんしょ)」です。

張永寛先生ご自身も、故宮博物院の数多くの文化財の復刻や修復に携わって、文化財の復刻・修復における第一人者です。

しゅー:ミャオ族と宮廷、それぞれで技を代々受け継いできた職人から学ばれたのですね。

張:はい。私は単にミャオ族の銀飾品を受け継ぐだけではなく、宮廷で培われた高い技術、すなわち中国文化そのものと融合させ、次の世代へ伝えていけるような存在、そしてブランドをつくっていきたいと考えています。

 

■優れた職人になるために重要なこと

しゅー:日々の訓練を続ける力や集中力に加え、お話にあったように中国の伝統的な技法とミャオ族の技術を組み合わせるような、異なる技術を融合させる力も必要なのですね。

三人の先生から技術を受け継いできた中で、優れた職人になるために最も大切だと感じている能力や姿勢は何でしょうか。

張:私がまず一番大切だと思うのは、「職人精神」です。その中には、大きく三つあると思っています。

一つ目は、孤独や地道な時間に耐えられること。

二つ目は、文化を守り続けること。

そして三つ目は、時代とともに進化していくことです。

まず、「孤独や地道な時間に耐える」ということですが、技術を学び始めた頃は、単調で根気のいる作業が延々と続きます。

しゅー:孤独ですか。

張:孤独です。毎日同じ動作、同じ技法を何度も繰り返し、それを一日一日積み重ねていく。そうした日々の訓練を通して、少しずつ自分の技術を磨き、さらに高いレベルへと高めていくことが大切だと思っています。

しゅー:一人前になるまでに、孤独な時間はどれほど必要なのでしょうか。

張:3年から5年で身につけられるのは、まだ基礎的な知識や技術にすぎないと思います。本当に技術を磨いていくには、10年、20年とかかることもあります。

職人の技には終わりがなく、「ここまでできれば完成」というものではありません。長い時間をかけて訓練を続け、積み重ねていくことで、技術は少しずつ高まり手の感覚や技法もより洗練されていきます。

ですから、何年かかれば一人前になれる、というような明確な時間の基準はないと考えています。

しゅー:ゴールがない、と。

張:ゴールはありません。積み重ねて、積み重ねて、時間をかけて、技術を磨き続けることが肝要です。

職人精神として大切なものの二つ目は、「文化を守ること」です。中国は、長い歴史と豊かな文化を持つ国です。その長い歴史の中で、さまざまな手工芸の文化や技術が育まれ、受け継がれてきました。

だからこそ私たちはまず自分たちの文化をしっかりと守り、その文化を土台にしながら、意味のあるもの、美しいものをつくっていくことが大切だと考えています。

三つ目は、「時代とともに進化していく」ことです。

現代の人々に受け入れられ、実際に使ってもらってこそ、伝統工芸は次の世代へと受け継いでいくことができると思っています。

張:伝統をそのまま守るだけではなく、現代の文化やライフスタイルと融合させながら、今の時代の美意識に合った、より魅力的で美しい製品を生み出していくことが大切だと考えています。

「今の人々が好きなもの」をつくりだせないと、伝統文化の価値が認められない。

しゅー:一方では伝統文化を守りつつ、もう一方では現在の市場のニーズに合った新しいものを生み出してゆかねばならない。

職人の伝統的な手仕事を大企業にまで大きくした張さんならではのご発言です。

 

■ミャオ族の銀細工を受け継いでゆくためには

しゅー:先ほど「受け継ぐ」ことについてもお話がありました。現在、ミャオ族の職人の方々が銀細工を仕事として続けていく環境は、どのようになっているのでしょうか。

張:この仕事に携わっている人自体は数多くおります。ただ、職人が作るもの/作れるものに対し、それを販売する市場や機会が十分にあるとは言えない状況です。技術の継承を諦めてしまう人も少なくありません。

例えば、何百年も前から彼らがそうであったように、家族や親類が着用するために銀細工を作っているミャオ族の職人もまだまだいます。

貴州省では祭りの際などで多くの人が銀の冠や首飾りを身につけていますし、衣装に取り付ける銀の装飾パーツもたくさんあります。そうしたものは、ひとつひとつ職人が細かなところまで丁寧に作り上げたものです。

二つ目は、文化公演や民族行事などで、衣装に合わせるために銀細工が使われるケースです。ただ、それ以外の日常生活や、より幅広いシーンで使われる機会は、まだそれほど多くありません。

しゅー:やはり、ミャオ族の伝統文化を守りながら大きく市場を広げるためには、ミャオ族でない人たちも好んでつけられるようなシルバーアクセサリーを作る必要がありますね。

張:はい。こうした問題意識から一般向けアクセサリーを作っている職人もいますが、デザイン面で十分でなかったり、現代の美意識とうまく融合できていなかったりするケースも散見されます。

そして、良い商品を作るだけでは十分ではありません。良いデザインに加えて、適切な市場の捉え方や、しっかりとしたマーケティングも必要だと思います。

しゅー:全く同じ課題を日本の職人業界も抱えています。伝統工芸は新しい市場の開拓なくしては生き残ってゆけないでしょうね。

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