経済産業省の官僚として地域と産業を巡ってきた岸本吉生氏。職人の手しごとを発信するECサイトCRAFT-TALES.comのしゅーによる伝統工芸産業についてインタビューをしました。「商人」「職人」「顧客」「場所」の視点から課題解決のヒントを探ります。

第2回ではものづくりの担い手である「職人」フォーカスしてお話を聞きました。

第1回対談

第3回対談

第4回対談

しゅー:今回は、職人がすること、職人のあるべき姿についてお尋ねします。

岸本吉生:職人の仕事は永年の経験を要します。同時に、変化に柔軟な気持ちが求められます。昨日と違うことをする勇気、変化していく意欲です。若い職人さんはその点は大丈夫でしょうが経験と技術は未熟です。新しいものをもてはやす風潮は、伝統工芸のレベルを下げかねません。

しゅー:どうすれば良いのでしょうか。

岸本吉生:変化しようとする若い職人と、齢を重ね腕を磨いた職人がチームになることです。若い人のアイデアと意欲が熟練の職人の経験と技と一体となって仕上げる。守破離です。そんなチームがいくつもできるといいなと思います。イタリアや中国ではどうやっているのか関心を持っています。

(CRAFT TALESで販売中のApple AirPods 4用の銀製ケースを見せる)

岸本吉生:良い品ですね。職人が挑んだ製品ですね。作るのが大変だったでしょう。

しゅー:半年以上の試行錯誤がありました。

岸本吉生:銀細工には決まった手順があるのでしょうがそれを乗り越えていく。開発してもらいたい人と職人が譲り合ってできたのですね。職人に100%譲らせてはいけないですね。

しゅー:どういうことでしょうか。

岸本吉生:職人が作った新製品が開発者から見ると満足できない出来だとします。出来が良かろうが悪かろうが、開発者がきちんとお金を払えば、職人は次も喜んで作ります。輪島にはその仕組みがありました。売れないと承知の上で未熟な職人に仕事を出すのです。職人はその仕事で腕を磨くのです。作ったものが売れなければ職人は自分の実力はその程度だとわかります。ここで奮起しない職人にいい仕事は来ないでしょう。

しゅー:若い職人が腕を磨く仕組みですね。

岸本吉生:実力がない職人にはいい仕事は出さない。作るスピードを含めてです。実力の足りない職人が商品を売ると輪島塗の信用にかかわります。若い職人は新しいアイデアを考える。熟練の職人が若い職人のアイデアを聞き入れて一緒に作る。双方が折り合えるそのつながりができるといいなと思っています。

しゅー:認められたい、コンテストで入賞したいと望むのは良くないでしょうか。

岸本吉生:しゅーさんは、良い仕事をしたいから仕事をしているのではありませんか。褒められたい。受賞して箔をつけたい。そんな動機で働いて周りの職人から信頼されるでしょうか

しゅー:関係性についてお尋ねします。以前「伝統工芸」をテーマにしたTBSの番組をお手伝いしたとき「師匠が自身の作品を安い値段で売ってしまい、弟子は自分の作品に師匠より高い値段をつけられない」という問題提起がありました。

岸本吉生:なぜ師匠がその値段で売ったのか。100万円のものを70万円で売ったら、お客様に30万円をプレゼントしたことになります。そういうことが分からないのかもしれませんね。一物一価ではないのですから。

しゅー:弟子が暮らしていけません。

岸本吉生:自分が師匠よりも高い値段をつけられないという考えが間違いではないでしょうか。時と場合によります。師匠はいつもも70万円で売っているわけではないでしょう。「師匠はどうして安く売ったのですか、私が100万円で売ってもかまいませんかと尋ねて、折り合いをつけてはいかがでしょうか。師匠と弟子が意思を通じ合うことは、話さなくてもわかる信頼関係につながると思います。

しゅー:工芸業界には余裕が感じられせん。余裕がない中で円滑なコミュニケーションができるのでしょうか。

岸本吉生:仕事で大切にすることは世代によって違います。20代でこの道に入り、30代で腕が上がり、所帯をもって家を建てるとなると「今稼がなくていつ稼ぐ」という気持ちになるのは当たり前です。50代以上になると、経験や勘は冴えわたりますが視力や集中力が下がったという自覚も出始めます。きょうも仕事をできることに感謝して仕事をするようになるでしょう。価値は多様ですが優劣はありません。お互いを尊重できるといいですね。

岸本吉生:手仕事は、納期を任せてもらう方がいい仕事になります。余裕をもつためには、作り置きして在庫を抱える体制から、受注生産体制に移行できたらと思います。作り置きした商品が売れなかったときに職人が負担を被ることも避けたいですね。仕事をしたのに職人の報酬が下がるのでは若い世代は職人になりません。職人に気持ちよく仕事していただきたいと心から思います。「職人のくらしに十分な手当を支払っています」という塗師屋さんが顧客に信頼される世の中になってほしいです。

しゅー:そこに価値を見出すお客さんもいらっしゃるはずです。

第3回は「顧客」についてお話をお伺いします。

第3回対談

岸本さまにはCRAFT TALESの12 Sun Bangleを愛用いただいております。